虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「壁紙はこの壁紙がいいかしら……。家具も他の部屋のと合わせて茶系でシックにまとめたいから……」

 ミランダは忙しくも充実した日々を送っていた。

 特に宮殿の改築は、ジュスティーヌで得た経験もあり、ディオンが気に入るようにあれこれと考えるのが楽しかった。

(ディオン様、今頃何しているかしら)

 彼と身体を繋げてから、ぐっと距離が縮まった気がする。よく、触れられるようになった。まだ少し恥ずかしいのでつい離れようとすると抱き寄せられ、ディオンもミランダに触れてほしいと耳元で懇願されるのだ。そのまま口づけされる流れになって――

(どれくらいが普通なのかしら……)

 朝もディオンに抱かれたことを思い出し、ミランダは顔が熱くなる。

「王妃殿下。そろそろお茶会のお支度をなさいませんと」
「あ、あら、もうそんな時間なのね」

 現実に戻ったミランダは侍女に促され、客人と会うのに相応しいドレスに着替える。

「――みなさん。この間はごめんなさい」

 今度は少人数を呼んで茶会を開くと決めたミランダは、フォンテーヌ夫人が失言した際にとりなそうとした者や眉をひそめた者――常識があり、自分の味方になってくれそうな夫人たちを呼び寄せた。

「いえ、王妃殿下は何も悪くありませんわ」
「ええ。フォンテーヌ夫人の言い方はあの場に相応しくありませんでしたもの」
「それに私たちも、夫人の物言いには以前から少しどうかと思うところがありましたから」

 案の定、彼女たちはミランダに同情的だった。

「ありがとう。そう言ってもらえるとわたしも安心します。……でも、わたし、夫人には感謝していますの」
「まぁ。どうしてですの?」
「だって彼女のおかげでディオン様と打ち解けることができて、とても仲良くなりましたもの」

 ミランダの言葉に彼女たちは目を丸くしたのち、くすくすと笑い合った。

「まぁ、王妃殿下ったら」
「わたしのことはどうかミランダ、とお呼びして。実はね、以前は初めてお会いすることもあって少し猫を被っていたの。これからはもっと砕けた態度でみなさんと接していきたいわ。その方が、肩も凝らないから」

 茶目っ気のある調子でミランダがそう言うと、また彼女たちは驚き、肩の力が抜けたように頷いてくれた。

「ミランダ様って、実はとても親しみやすい方なんですね」

 くりっとした黒目にヴェーブのかかった栗色の髪をした、子リスのような印象を抱かせる夫人――初めての茶会の時も率直に意見を述べていたメルシエ伯爵の妻、フィリッパが好奇心を隠せない表情でミランダに話しかけてくる。

「ふふ。最初会った時は怖かったでしょう?」
「最初会った時も、怖くはありませんでしたわ。でも、噂をいろいろ耳にしていましたので、戸惑ってしまいましたの」
「フィリッパ」

 正直に言い過ぎだと咎めるようにフィリッパの隣に座る女性が名前を呼んだ。

「あ、ごめんなさい。私ったらつい何でもかんでも正直に述べてしまう癖があって……夫にも気をつけるよう度々注意されるんです」
「大丈夫よ。わたしもはっきり言ってくれる方が好みだから。それに、嫌われていないようだとわかってほっとしたわ」

 そう言うと、夫人たちは少し気まずそうな顔をしたが、フィリッパがすぐに「そうですよ」ときらきらした眼差しを向けてくる。

「ミランダ様って素敵な方なんですね。陛下が夢中になるのも頷けます!」
「そ、そう?」
「はい。陛下があんなふうに女性を口説く姿、初めて見ました」

 ね? とフィリッパが他の夫人たちに同意を求めると、彼女たちもこくこく頷く。

「舞踏会の時に慣習として踊ったことがあるのですが、その時もあくまでも義務的に接していた感じがして……ミランダ様の時とはまったく違ったので驚きました」
「ええ。とても優しい表情をして、甘い目でしたわね」
「わたくしの夫と同じ目をしていましたわ」
「まぁ。それは惚気かしら?」

 笑いが起こり、和やかな雰囲気になる。

 ミランダはよかった、と思いながら夫人たちとの世間話を楽しんだ。
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