虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「嬉しそうだな」

 夕食の時に今日のことを思い出していたミランダは向かいに座るディオンの方を見た。

「わかりますか?」
「ああ。表情が明るい。今日の茶会か?」
「はい。皆さんとたくさんお話することができて、とても楽しかったです」

 そうでもないと思っていたが、やはり同世代の女性と話すことができて、今まで自分は寂しかったのだと気づいた。そしてまた次の約束をしたことでわくわくしている。

「明日は孤児院の慰問にも行くそうだな?」
「はい。実は今日お茶会を一緒にした夫人の一人も行くそうで……初めてで緊張していたので心強いですわ」
「そうか……。次は、俺とも出かけてくれるか?」
「ディオン様と? いいですわね。孤児院の子たちも国王陛下が訪れたらきっと驚いて、忘れられない思い出になりますもの」
「いや、それもいいが、できれば別の機会にして、初めてあなたと行く場所は孤児院ではなく……」
「他にどこか行きたいところがおありで?」
「ああ。そうだな、王立歌劇場とか、普通に街中でもいいんだが……」

 もごもごと歯切れ悪く候補を挙げるディオンにミランダは首を傾げる。

(とにかく人が多い場所がいいのかしら)

 国王夫妻の仲睦まじい姿を国民に見せるパフォーマンスを兼ねてだろうか。

 ミランダがそう訊くと、彼はどこか困ったように自分の気持ちを明かしてくれた。

「俺がただ、あなたと一緒に楽しみたいんだ。その、世間一般の恋人たちがするような男女交際を、だな」
「男女交際……」

 それはつまり、デート……と思い当たったところで、ミランダは全く違うように考えていた自分が恥ずかしくなった。

「嫌か?」
「まさか! ……ただ、デートに誘われるなんて思いもしなかったので、何と言いますか、そういうことを考えない自分の頭の堅さが恥ずかしくなりました」
「それは……仕方がないのではないか? 今まで俺は、あなたにそういった素振りを見せなかったから。……だが、そういった経験は今までにないのか?」
「デートですか? まさか! 異性と二人きりになるなんて、そんなところ誰かに見られたら大事ですもの」

 仮にも王女であったので、ミランダもそのへんは気を付けていた。

(あ、でもロジェと一緒に街に行ったことはあったかも)

 自分のお下がりをあげるという体で姉の誕生日に贈るプレゼントを選びに行ったのだ。どうしても自分の目で見て選びたかったから。

(うん。あの時は別にデートじゃないし、そもそもロジェは異性としてカウントされていないし、まだ子どもの頃の話だったから)

 といろいろ心の中で言い訳していたミランダは、ディオンの表情が先ほどよりも嬉しそうなことに気づいた。

「ディオン様? どうしました?」
「いや……俺が初めてミランダとデートできる相手だと思ったら、こう、胸が躍った」

 周りに花でも浮かんでいるような雰囲気を出しながらディオンは言った。

(ディオン様って……純情な方なのね)

 あまりにも真っ直ぐに気持ちをぶつけられ、そして恋愛に慣れていないと思われるがゆえの不器用な表現に、ミランダの方が照れ臭い気持ちになってしまう。

「あなたと出かけるのがとても楽しみだ」

(でも……決して嫌ではない)

「はい。わたしも、あなたとのデート、楽しみですわ」

 自分もまた、初めての恋に胸が躍った。
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