虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「ミランダ様。最近、ディオン様と仲睦まじいとお聞きしますわ」
王城の敷地内にある礼拝堂に茶会を通じて親しくなった夫人たちと足を運んだ帰り、フィリッパが目を輝かせながらそう言った。
ミランダは何となく気恥ずかしい思いがしたが、国王夫妻の仲が良いことは別に悪いことではないので素直に頷いてみせた。いつも自信満々のミランダにしてはどこか恥ずかしがっている感情が表情に出ていたのか、フィリッパたちは小さく色めき立った。
「やっぱり! お噂では陛下が片時もミランダ様を手放さないとか!」
「えっ、別にそこまでは……」
「この前の夜会でも、陛下はじっとミランダ様を見つめていましたものね。その視線に気づいたミランダ様も陛下の方を見て可憐に微笑んで……もう眼福でしたわ」
(あ、あれ見られていたのね)
他にも彼女たちはディオンとミランダがいちゃいちゃしていたという噂や実際に目撃した姿を挙げて、ミランダを居たたまれない気持ちにさせた。
(こ、こういうの、自分が言われる立場だと、非常に気まずいのね!)
女性たちの話し声は当然護衛や侍女――ロジェにも聞こえており、いつもの無感情な顔をしているが、内心どう思っているのか……後で絶対からかわれるのは確定している。
耐え切れなくなったミランダが話を変えようとした時。ふと前からヴェールを被った女性が歩いてくるのが見えた。
グランディエ国の女性信徒は祈りを捧げる神の場所へ行く際、他の人間に顔を見せないようヴェールを被って移動したという。今はもうその慣習はずいぶんと薄まったようだが、敬虔な信徒の中には今でも守っている者もいるそうだ。礼拝堂にもそうした女性はいたし、近づいてくる女性もその一人なのだろう。
(でも、何だか……)
「ね、ミランダ様。今日のこともぜひディオン様に――」
フィリッパの明るい声を耳にしながら、ミランダは女性がゆったりと巻いているショールの内側から何かを――きらりと光る刃物を取り出したのを見た。
その瞬間、ミランダはとっさに立ち止まり、フィリッパたちを後ろに押しやった。
「ロジェ!」
ミランダの声が引き金となったのか、それとも同時だったのか、女性が前屈みになり、突進してきた。
無防備な女性の思わぬ俊敏な動きに、他の護衛たちはとっさに反応できなかった。
ロジェ以外。
ミランダのすぐ目の前まで迫った女性を、ロジェが素早く間に入り、刃物を握る手首を捕まえ上へ持ち上げた。
「ぐぅっ」
「えっ、なに、っ……きゃああっ」
状況の呑み込めなかった夫人たちも、天へと向けられた刃物の鋭さにようやく事態を呑み込む。彼女たちの悲鳴が重なる中、ロジェはあっという間に女性の手から刃物を落とさせ、他の護衛たちの手を借りる暇なく後ろに手を組ませて拘束し終えた。
「王妃殿下!」
「ご無事ですか!」
慌てふためる護衛たちにミランダは微かに笑みを浮かべ、落ち着いた声で告げる。
「わたしは大丈夫です。みなさんも、犯人はご覧の通り捕まえられました。もう大丈夫ですよ」
ミランダがフィリッパたちを慰めると、彼女たちは混乱しながらも、ここで気遣うべきは王妃の方であり、狼狽えている場合ではないと気づいた様子で何とか声をかけようとする。
「えっと、私たちは大丈夫です」
「そうですよ。王妃殿下の方が……」
ミランダは再度安心させるように微笑み、護衛たちに連行される犯人の姿を見た。ヴェールが落ち、現れた素顔は、一度目のお茶会で他の夫人たちに紛れるようにして見たものだった。
王城の敷地内にある礼拝堂に茶会を通じて親しくなった夫人たちと足を運んだ帰り、フィリッパが目を輝かせながらそう言った。
ミランダは何となく気恥ずかしい思いがしたが、国王夫妻の仲が良いことは別に悪いことではないので素直に頷いてみせた。いつも自信満々のミランダにしてはどこか恥ずかしがっている感情が表情に出ていたのか、フィリッパたちは小さく色めき立った。
「やっぱり! お噂では陛下が片時もミランダ様を手放さないとか!」
「えっ、別にそこまでは……」
「この前の夜会でも、陛下はじっとミランダ様を見つめていましたものね。その視線に気づいたミランダ様も陛下の方を見て可憐に微笑んで……もう眼福でしたわ」
(あ、あれ見られていたのね)
他にも彼女たちはディオンとミランダがいちゃいちゃしていたという噂や実際に目撃した姿を挙げて、ミランダを居たたまれない気持ちにさせた。
(こ、こういうの、自分が言われる立場だと、非常に気まずいのね!)
女性たちの話し声は当然護衛や侍女――ロジェにも聞こえており、いつもの無感情な顔をしているが、内心どう思っているのか……後で絶対からかわれるのは確定している。
耐え切れなくなったミランダが話を変えようとした時。ふと前からヴェールを被った女性が歩いてくるのが見えた。
グランディエ国の女性信徒は祈りを捧げる神の場所へ行く際、他の人間に顔を見せないようヴェールを被って移動したという。今はもうその慣習はずいぶんと薄まったようだが、敬虔な信徒の中には今でも守っている者もいるそうだ。礼拝堂にもそうした女性はいたし、近づいてくる女性もその一人なのだろう。
(でも、何だか……)
「ね、ミランダ様。今日のこともぜひディオン様に――」
フィリッパの明るい声を耳にしながら、ミランダは女性がゆったりと巻いているショールの内側から何かを――きらりと光る刃物を取り出したのを見た。
その瞬間、ミランダはとっさに立ち止まり、フィリッパたちを後ろに押しやった。
「ロジェ!」
ミランダの声が引き金となったのか、それとも同時だったのか、女性が前屈みになり、突進してきた。
無防備な女性の思わぬ俊敏な動きに、他の護衛たちはとっさに反応できなかった。
ロジェ以外。
ミランダのすぐ目の前まで迫った女性を、ロジェが素早く間に入り、刃物を握る手首を捕まえ上へ持ち上げた。
「ぐぅっ」
「えっ、なに、っ……きゃああっ」
状況の呑み込めなかった夫人たちも、天へと向けられた刃物の鋭さにようやく事態を呑み込む。彼女たちの悲鳴が重なる中、ロジェはあっという間に女性の手から刃物を落とさせ、他の護衛たちの手を借りる暇なく後ろに手を組ませて拘束し終えた。
「王妃殿下!」
「ご無事ですか!」
慌てふためる護衛たちにミランダは微かに笑みを浮かべ、落ち着いた声で告げる。
「わたしは大丈夫です。みなさんも、犯人はご覧の通り捕まえられました。もう大丈夫ですよ」
ミランダがフィリッパたちを慰めると、彼女たちは混乱しながらも、ここで気遣うべきは王妃の方であり、狼狽えている場合ではないと気づいた様子で何とか声をかけようとする。
「えっと、私たちは大丈夫です」
「そうですよ。王妃殿下の方が……」
ミランダは再度安心させるように微笑み、護衛たちに連行される犯人の姿を見た。ヴェールが落ち、現れた素顔は、一度目のお茶会で他の夫人たちに紛れるようにして見たものだった。