虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「犯人はディオン様と姫様の関係に嫉妬したそうで、姫様さえいなければ自分が王妃になることができたのに……と供述しているそうです」

 ミランダは安全な自室でロジェから犯人の動機などを聞かされていた。

「そう……」

 女性の嫁ぎ先は伯爵位で由緒正しい家系ではあったものの、貧乏で、あまり裕福な生活を送ることはできていなかったという。
 そういった生活で蓄積されていた不満が、ぽっと出で嫁いできたミランダの幸せな状況を見て抑えきれなくなったのだろう。

(一応、動機としてはおかしくないけれど……)

 いや、考えすぎだとミランダは首を振った。

「ミラ!」

 これ以上難しく考えるのはよそう、とミランダは青ざめた表情で部屋へ入ってきたディオンの姿を見て決めた。

「ミラ! 無事でよかった! すまない! あなたを守ると誓ったのに! 怖かっただろう。可哀想に!」
「あ、あの、ディオン様。わたしは無事ですので落ち着いて……少し苦しいです」

 飛びかかってくるように抱きしめられて、こちらが口を挟む暇もなく捲し立てられ、ミランダの心臓は驚いてしまう。それだけ、彼も心配して、安堵している証拠なのだろうか。

「ご心配をおかけしました。わたしはご覧の通り無傷ですので、ディオン様が心を痛める必要はありませんよ」
「ミラ……」

 ディオンは眉根を寄せ、何だか泣いてしまいそうな顔を見せたあと、もう一度ミランダをきつく抱きしめた。

「あ、あの、ディオン様、そろそろ離れてくださると……」
「酷いことを言う。あなたが無事であることを確かめさせてもくれないのか」
「い、いえ、ですが……ロジェも、いますから」

 ほらとロジェの方を見れば、彼はミランダたちのことをガン見していたのだが、二人が揃って視線を向けていると、スッと自分の手で両目を隠し、「どうぞ、続きをなさってください」と促した。

 それでディオンも気が削がれたのか、押し倒そうとしていた体勢を正し、改めてミランダと向き直った。

「捕まえられた彼女だが、伯爵家ともども、爵位を返上させる。それから、まだこれから詳しいことを調べていく予定だが、彼女はどうやらあの修道院から身投げした母娘の生き残り……遠縁にあたるらしい」
「本当ですか」

 ああ、とディオンが複雑そうな顔で頷く。

「……そうだったのですか。魔女の生き残りは、まだいたのですね」
「だがこれですべて終わった。今度こそ、もう魔女はいない。だから、もう大丈夫だ」

 ディオンが再び抱きしめ、魔女の呪いを解くように言葉を呟く。

 ミランダはロジェの視線が気になったものの、彼もまたもう心配することは何もないと同意するように頷いたので、彼女はそのまま夫の抱擁を受け入れた。
< 44 / 54 >

この作品をシェア

pagetop