虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
 まずミランダはジュスティーヌの置かれている状況――両親との関わり、彼女に仕える人間の態度、住んでいる場所などをきちんと調べてみることにした。そして一つの結論に至る。

「なんなのこのお姉さまの扱いは!?」

 ジュスティーヌの育つ環境は王族とは思えぬほど劣悪であった。

 まず離宮で隔離され、まるで監禁されているかのように育てられていること。その離宮も寂れて、修復すべき箇所があちこち見られるのに放ったらかしにされている。庭師はもちろん、ジュスティーヌの身の回りの世話をする使用人もろくにいない。

「こうなってくると、お姉さまに配分されるお金もケチっている可能性があるわね……」

 ドレスが流行おくれなのも頷ける。

(わたくしと同じ王女なのに、何なのこの差は!?)

「お父さまは何も思わないわけ!?」

 と、ミランダは憤然やるかたない態度で父に訴えた。愛娘に激怒され、父は大いに狼狽える。

「ミラ。私もジュスティーヌのことは可愛く思っているよ。だがね、世の中にはあちらを立てればこちらが立たずというものでね……オデットが泣いてしまうのだよ」

『あなたはわたくしより、あの子が可愛いのですね。そうですよね、愛する女性の忘れ形見ですものね。そして今でも、わたくしより愛して、忘れられないのでしょう。ええ、ええ、よくわかっておりますわ……』

 母は悪女である。男性の心をどうやったら引き留め、揺さぶることができるか、よく心得ている。こういう時、責めてはいけないのだ。ただ罪悪感を刺激するように涙を見せるのがもっとも効果的である。ミランダも正直、母の涙には弱い。だから父が言うことを聞いてしまうのもまぁ、わかる。

「だからってお姉さまを放置しておくのは親としてどうなんですか」
「ううむ……」

 娘に正論を指摘され、国王は何も言えない。

「わかったら、お姉さまのことをもっと気にかけてあげてください!」
「はい……」

 だがやはり、姉の境遇は以前と変わらぬままだった。

 原因は母である。母がありとあらゆる女の武器を駆使して、ジュスティーヌが幸せになる環境を阻止したのだ。彼女からすれば、ぼろぼろの離宮が修復されただけでも十分だと考えている。

「ミランダ。あの娘とどうか仲良くしないで。お母様、気分が悪くなるわ」

 母は涙目で娘にも懇願した。両親は大切にすべきだと教えられているミランダは一瞬挫けそうになる。だが、ここで自分が折れてしまえば、ジュスティーヌの置かれた環境は酷いままだ。

(……っく、こうなったら!)

 ミランダは決意した。もしかすると後で面倒なことになるかもしれないが、愛する姉のためならば、微塵もためらいはなかった。
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