降っても晴れても
「ホストクラブ通いか!」

 杏が呆れた表情を向けてくる。

「はいはい。何とでも言って」

 上品な光沢のサテンワンピースに身を包み、リップを塗り直しながら、鏡越しに琉那が返した。

「あんたねえ、いい加減その生活やめないと、本当に体壊すよ!」

 言われなくても自分が一番分かっている。が、どうにも止められない自分もいた。

「気になってたんだけどさ、最近肌の調子悪そうだし」

 杏に言われ、琉那は自分の頬に触れた。

「確かにそうかも」
「夜もろくなもの食べてないんじゃないの?」

 そう聞かれ、琉那は素麺だけで済ませた昨日の夕食を思い出し苦笑いを浮かべた。

「大丈夫だよ~! お昼にはバランスのとれた杏ちゃんのお弁当食べてるから!」
「もう、何言ってんのっ! ふざけてないで、そろそろ決心固めないと」
「分かってる」

 琉那は化粧ポーチに視線を落とし、中身を整理するふりをした。

「じゃあ、先帰るね」
「うん、お疲れ」

 杏の顔も見ないで応えた。

「琉那?」
「ん?」

 さすがに顔を上げ、杏と目を合わせた。

「心と体の栄養たっぷりとってきなよ!」

 そう言うと、杏は優しく微笑み手を振った。

 化粧室を出た琉那は、オフィス内の休憩室でスマホを弄って時間を潰していた。店の予約は六時半。本当なら近くのカフェで時間を潰したいところだが、今はそれさえも我慢しなくてはいけない。

 何やってんだろ、私……。

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