降っても晴れても
「はーぁ……」

 晴れマーク続きの天気予報を見て、琉那は思わず溜め息を吐き、天を仰いだ。

 ――雨よ、降れっ!! 

 神様、こんな健気な私に少しばかりの(ちから)……いや、割引きチケットをお恵みください!

 それは、『雨の日チケット』のことだ。
 雨の日に『cache cache』で食事をすると、会計時に雨の日チケットが貰え、次回の会計が一割引きになるというものだ。店に通うようになった三ヶ月間で、琉那は二枚のチケットを貰っていた。大雨の日が二度あったのだ。
 実際には、雨の日チケットとは言われていないが、「お足元の悪い中……」と言っていたことから、恐らくそういう趣旨だろうと解釈した。
 スーパーなんかで大量に配布される“三十円引き”の文字がでかでかと印刷されているものとは全く別物で、素敵なデザインの栞のようなチケットには、店名(cache cache )と、英語でスペシャルチケットとだけ記されている。
 高額支払いの際の一割引きはかなり有難いが、雨の日を狙って行くことはなかなか難しい。何故なら、三日前までの完全予約制だからだ。

 雨が降る度に一割引きチケットを配布していて、店は大丈夫なのだろうか、などと考えてしまうことがある。   
 コース料理のみの完全予約制で一日の来客数が限られているとはいえ、梅雨時期などはどうなるのだろう。小雨も含まれるのだろうか。
 そんなことを気にしながら店に通っているのは、恐らく自分だけだろう、と琉那は思う。

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