降っても晴れても
『ホストクラブ通いか!』

 仕事の帰り道、琉那は杏に言われた言葉を思い出していた。
 杏からすれば、そう見えるのだろう。決して貢いでいるわけではないが、食べに(●●●)というか、会いに(●●●)行く度に、身の丈に合わない高額支払いをするわけだから、それと大差ないのかもしれない。プレミアムシートのチケットで推しのライブにでも行ったと思えば、と考えたりもしたが、さすがに週一では行かないだろう。
 けれども、最高の料理を味わうことが出来るし、同じ空間にいて、一言二言交わすことも出来る。時には自分のことを気に掛けてくれたり、自分だけに笑顔を向けてくれることもある。
 それでもやはり、だから安いものだ、と言えるはずもなく、懐具合はもう限界を超えていた。

 翌日、珍しく杏が風邪で休んだ。当然琉那は昼食抜きとなった。
 昼休みに『生きてるか?』と杏からメールがあり、『それはこっちのセリフだよ』と琉那は返した。
 いつもきつい言い方をする杏だが、決して琉那に諦めろとは言わない。彩り豊かな弁当からは、杏の『頑張れ』の思いが伝わっていて、琉那は杏の優しさを噛みしめていた。

 こんなことをいつまでも続けていけるわけがない。

 頭では分かっていても、予約日が近付くと心が踊る。

 明日は伊勢谷に会える。

 降水確率、零パーセント。

 懐事情を考えるともう次はないかもしれないが、もしも明日雨が降って雨の日チケットを貰えば、使わなければ勿体ない、と、また足を運んでしまいそうな気がする。
 呆れ顔の杏と、柔らかく微笑む伊勢谷の顔が琉那の脳裏にちらついた。

 この際、晴天を祈ろう。
 降っても晴れても、明日で最後にしよう。
 明日、気持ちを伝えよう。

 琉那はそう心に決めた。

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