降っても晴れても
「お料理もホスピタリティも本当に最高です。そんな『cache cache 』に魅了されて、どうしても通いたくて色んなこと我慢して節約生活始めたんです」
「マジっすか? それほどに……」
「だから、雨の日チケットが本当にすごく有り難かったんです」
「ああ、スペシャルチケットのことですか?」
「あ、それです。あのお店で割引チケット利用するのは私ぐらいなんじゃないかって思うと、恥ずかしくなっちゃうんですけどね」

 伊勢谷と二人きりで話せる絶好のチャンスに、自分は何を話しているのだろう、と琉那は思わず苦笑した。もう話題の軌道修正は難しい。
 タイミングは、やはりさっきだったと気付き、琉那は臍を噛んだ。

「そんなことはないと思いますけど、うちの店は高級レストランの部類に入るから、お客さんもやっぱり少しゆとりのある人が多いように思います。あとは、お祝いとか記念日とか、大切な人との特別な日に利用していただいたり、ですかね」
「そうですよね」

 それは、初めから分かっていたことだ。

「だから、すごく目を引く存在だったんです」
「え?」

 何のことを言っているのかわからず、琉那は聞き返した。

「毎週一人で店にやってくる園田さんが」
「え、私ですか?」
「はい。俺より年下なのは分かってたけど、落ち着きがあって、すごく上品で」

 思いもよらない伊勢谷の言葉に、琉那は面食らっていた。

「いえ、見ての通り、今の私が等身大の私なんです。上品なワンピースも、それに合わせたパンプスやバッグも、キラキラのアクセサリーも、全て姉から借りた物です」
「そう……すか」

 一瞬言葉に詰まった伊勢谷は、何を思ったのだろう。

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