きみは永遠の小悪魔
私調べによるところ、千景くんは彗のことをよく思っていないらしい。今のように敬語を使っているのは、機嫌が悪い証拠だ。

「なんか腹立ってきた」と『お腹空いた』感覚で呟く千景くんの低い声が、鼓膜に降りてきた。

そしてまた、ゆらりと瞳を覗き込むように、首を横に倒す仕草。撫でるように、そっと頬に千景くんの指の腹が触れた。むぎゅと掴んだ攻撃を食らうのは、これで3回目だ。


「ふみ、一緒に帰るのイヤ?」


甘ったるいブラウンをかけたアーモンドアイが、寂しげに揺らめく。
弱々しい千景くんに、きゅんとするのが普通の女の子。「頭でも打ったのかな?」なんて、心配事に意識が向くのは私。

いつもなら苦手意識が勝ってしまい、上手く喋れないはずなのに、アルコールの力を借りているおかげか、ずいぶん饒舌になる。


「それは違うけど、お迎え呼んでるの。ワガママ言って来てくれるのに“やっぱりいいです”なんて言えないよ。千景くんが良いなら、一緒に乗って帰れるけど、イヤだよね?」

「無理、やだ」

「……………でしょうね」

「言わせんなや」


大きな掌が頭の上に置かれて、私の髪をぐしゃとした。前言撤回。千景くんは通常運転だ。


「わっ。暴力反対」

「は?違うし。ふみと居るの飽きねえな。……やっぱり俺が貰うわ」

「いっ、意味わからんし」

「下手くそ。真似すんなや」


フッと笑う千景くんに、私の余裕がなくなった。
尖った唇が続きを告げようとしたところへ、もう一つの音が重なる。


「ふみさん返せよ」
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