きみは永遠の小悪魔
頭の上に、ころんと乗るのは彗の声だった。
数時間前のケンカをなかったことにした私は、耳の先を赤らめて彗に視線を預ける。

瞳がぶつかり、ぎゅっと結んだ口が緩みそうなのを我慢した。

「……遅い」と愚痴を溢す私を他所に、恐れていた事態が起こる。口火を切ったのは千景くんで、彗のことをひと睨みした。


「礼儀もなってない犬がなんの用?邪魔、退けや」

「だっる。“元”婚約者の分際で調子のんなよ、クソガキ」


聞くに耐えない言葉の数々。前後から飛び交うので、思わず耳を塞ぎたくなる。

「うるさ〜」と苦笑いする周子ちゃんを真似したくなったけど、事の発端である私がするのはとても常識外れなので、二人を黙って見るだけ。


「お前のせいで傷でも付いたら、こっちが迷惑なんだよ」

「あの……………もう少し仲良くできません?穏便にお願いします」


メンタル鬼強の奏太くんが間に割って入った。「帰ってください」と言わんばかりに、手際よく私のコートとバッグを彗に渡す…より押し付ける。

そして、私のことも押し付けた。


「ほら、ふみさん腕伸ばして」

「はあい」

「次はこっち」


言われるがまま、暖かいダッフルコートを見に纏う。寒いのが存分苦手な私は、ちゃんと首元までボタンを留めて、彗が持って来てくれたマフラーもぐるぐる巻き。

うん。これで車に乗るまで寒さは凌げる。完璧だ。


「…千景くん、おやすみなさいです」


彗は千景くんのことを完全に無視しているんだけど、よくない気がする。
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