きみは永遠の小悪魔
「いじわる」そっぽを向いて唇を尖らせた。

つっけんどんな言い方で彗を突き放そうとするが、ソファが軋む音につられてしまい、意識ごと彼のものになる。

膝がくっつきそうな距離に、鼓動はゆっくり、ことこと早まる。爽やかで優しいシトラスの香りが私に移ってく。


「いらない?」


も一度、手に取ったスコーンを口元へ差し出された。甘えるような、くすぐったい声が鼓膜を撫でる。

小さな欲に負ける弱々な意志の私は、拒めない彗の誘惑に肩を窄めた。

今日じゃなくても、いつだって主導権は彗に握られてる。でもね、悪い気なんてしてないの。

なんと言えばいいんでしょう…えっと。ええと…うーん……。えいっ!

「いただきますっ」で一口だけのはずが、勢い余ってハムスターみたいに口いっぱい詰め込んでしまった。


「おいしいですか?」

「ぅ…ん、(ふぇ。ぁ…。いけない!)」


もぐもぐ舌に広がる甘い感触に、すこーしだけ開いた唇。

穏やかで素敵で、優しさの塊みたいな、品性も持ち合わせたお母さんから、子どもの頃教わったことが頭に浮かんだ。

———いい?ふみ。食べながらのお喋りは行儀が悪いから、やめようね

半分破った私は、途中まで繋がった言葉をのみこんだ。急いで首を振るの。

「甘くておいしいです」を言えない代わり。大きく二回も頷いちゃった。伝わったかなあ。

イチゴジャムをかけたスコーンを頬張る私に、彗は軽く笑った。私のほっぺは、こぼれ落ちそうに輝くんだ。


「ふ…。いい子ですね。かわいい」
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