きみは永遠の小悪魔【完】
千景くんが今年の春から始めた一人暮らしも、二つのアルバイトを掛け持ちしていることも、つい最近まで知らなくて。たまに会う千景くんのお兄さんや、奏太くん、周子ちゃんたちとの会話の中で知っていく。

黒色のリュックを背負った奏太くんが立ち上がった。清涼感が漂う爽やかな笑みを口にすいた。


「千景のことはオレがどうにかするから任せといて。んじゃ、またね」

「わたしも行くわ。ふみ、また明日〜」


息ぴったりな二人が手を振る。私も「またね、ばいばい」と顔の横でひらひら手を振ったんだ。


残された私はスマホと睨めっこ。少し時間を置いてから、慣れた指先でメッセージ画面を開いて文字を打つ。

送る相手は『弟大好き・世界一過保護な』千景くんのお兄さん。

《千景くん、しにそうみたいですよ》
じゃなくて。
《千景くん、しんどいらしいですよ》

と、周子ちゃんから教わった柔らかな方言混じりの文章を完成させた。


「送信、っと」


お節介焼きをした私に、千景くんは「余計なことすんなや」と毒づくこと間違いなし。

だけどね「電話したのに繋がらないんだけど、ふみ、なんかあった?」と、お兄さんから連絡が来そうだから、先に伝えておくことにしたの。

ひと段落した途端に、ぽわ、と視界が霞んで欠伸をする。もう一回、と口が半分くらい開いたとき、ポニーテールの毛先を優しく引かれ振り返った。
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