きみは永遠の小悪魔【完】
華やかなアンバーの双眸が前髪の隙間から視線を投げる。彗が起きたみたい。枕代わりに貸していた私のマフラーに埋めていた唇が、もぞもぞと微かに動いた。

私は椅子を彗の傍まで近づかせて。息をのむほどの美麗な顔を覗き込むように、ことんと首を横に倒した。


「おはようございます」

「…はよ、ございます」

『よく寝れましたか』


内緒の話をするみたいに声音を潜め、静かに尋ねる。


「……ん。おはよございます」


まだ眠たいのかな。私が聞いたことと違う返事が返ってきちゃった。

彗は薄らと瞳を細める。寝足りなさそうに瞼を伏せたかと思えば…あ。また、ゆっくり重たげに開いてく。

あどけない寝顔は見飽きないほど綺麗だと思っていたのに、今見せてくれてる、うとうとと眠たげに、ぼうっとなってる表情は普段の彗からは想像できないほど可愛らしい。

人差し指で彗の頬を突いてみる。む、と指の腹に軽い力を加えて押してみた。もう一度してみるけど、彗は私にされるがままで無反応だ。

「ふふ。かわいい」と笑みが溢れる。


「春藤さんがどうかしたんですか」


「さっき話してたでしょ」と目を擦りながら、彼の頬の上で遊んでいた私の指先を捕まえる。
優しく触れながらきゅっと握った。

千景くんのこと“アイツ”でも“御曹司”とも呼ばない。
そもそも、彗の口から千景くんの話が出るのは初めてだ。
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