きみは永遠の小悪魔【完】
「“千景くん”がなに?」

「ちかげくん、仲直りしたばかりです」

「で?」

一言告げた彗は、素っ気なく視線を外側に放る。その瞳に甘い温度はなく、アンバーの艶やかな色が濃くなっただけだ。

目をぱちぱちさせる私に「…やっぱりいいです」と、ほんの少しの冷たさを残す低い声が鼓膜に刺さった。


わぁあ…。彗の“すん”が“ふん”になっちゃった。

「ふみさん、この話は終わりましょう」

彗から言い出したのに、もういいんだって。


「むー!」と声を揺らした私に「むーじゃないです」と、顎を掬った指先をゆっくり剥がして、枕代わりに貸していたマフラーを首元に巻いてくれた。シトラスの残り香が鼻をくすぐる。

…千景くんと仲直りしちゃダメだった?

しゅんとなる気持ちと、重たい気持ちが半分こになった。素直に聞けるわけもなく、じ…と彗を上目遣いに眺める間にも、彼は教科書やノートを詰め込んだ私のトートバッグをいつものように肩に掛けて持ってくれる。

さすがに甘えたが過ぎるので、彗が久世家に電話をかけてる隙に、トートバッグを横から降ろし、自分の手に持ち替えた。

「今から帰ります。ええ。はい、わかりました。遅くならないように気をつけます」隣で聞こえるのは落ち着いた声音。表情ひとつ変えやしない彗をぼんやり見ながら、ふと思うんだ。

私のこと揶揄うときは楽しそうな顔してるのに、千景くんのことになると、聞いてくるわりには興味なさそうな———…あ。

電話を終えたばかりの彗に向かってスーツの裾を下に引っ張った。背伸びをしながら、こそっと聞いてみるの。


『もしかしてヤキモチ?……ですか?』
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