きみは永遠の小悪魔【完】
「あー…あいつのことなんて気にすることなかったのに」

耳元を掠めた声音は、鎮まることのない鼓動に掻き消された。体を剥がして彗の方へ視線だけ上げる。


「言っておきますけど俺、けっこう浮かれてます」

「そっ、そうなの?」

「はい」


ふ、と笑みをすいた彗に、私は瞬きを繰り返しながら「(わ、わぁあ…っ)」と、心の中で浮き足立った。今にも緩みそうな口角は頑張って強く結ぶ。

スコーンのとき……とか?

ひとつ、心当たりがあったけれど聞くことはしなかった。

きっと、あれが彗の言う『浮かれてる』だと思ったから———…と、甘さを控えた余韻が残るところ、涙袋の影を撫でられた。

肩が跳ねたのは一瞬のうち。

端正な顔が近づくけれど、鼻先がくっつく手前で止まった。

ぱち、と一度瞬きをする。


「一日3回まででしたね」


悪戯な口調をのせた彗は私の輪郭に柔く触れる。

「“待て”は慣れてるので、いつまでも待ちますよ」と言いながら、人差し指でそっと私の頬を押した。それから、親指で唇の縁をなぞっていく。

いつの間にか、そういう雰囲気にのみこまれていて。ぎゅっと瞼を閉じた私は下手くそなキスを彼の頬に落とした。

ゆっくり離れてからわかるの。彗の瞳に淡く映った私の顔が、赤く色づいてることに。

「…今日だけトクベツ。4回です」と言い訳じみる。「何ですか、それ」と彗は呆れながらも、お返しと言わんばかりに、私の前髪を梳いて額に口付けをした。

ぽわんと蕩けた私に彗は言うの。


「今日からは俺のふみさんてことで。よろしくお願いします」
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