きみは永遠の小悪魔【完】
“門限”の強力ワードを駆使しても折れてくれない。食い下がるどころか、男の人は意地になりつつある。

私は引き攣った苦笑いを浮かべ「ほんとに大丈夫なんです。ご遠慮なく」と、右手を顔の前で大きく振った。

心の真ん中では、何度も「お願いだから、もう諦めてください」と繰り返したの。


「実はさぁ」


やけに渇いた声が、白い息と共に宙を舞う。苦手なタバコの匂いが鼻を通って喉を痛めつけて。


「前からふみちゃんのこと、いいなって思ってたんだよね。可愛いし素直で、純粋そうで何でも聞いてくれそうだなーって」


にこりと笑みを深めた。

決めつけと、不機嫌さを滲ませた言葉を上手い具合に繋ぎ合わせ、反論できないように周囲を固めるんだ。男の人は、すっかり黙り込んだ私に、じりじりと近寄る。

脳裏に浮かんだのは、

———久世さんのこと、可愛いなって思ってたんだ

———君も、オレのこと好きだろ?じゃなきゃ、あんなに優しく笑いかけたりしないよな

高校生の頃、ストーカー紛いをされた家庭教師の先生の面影。心臓の音が、バクバクと跳ねる。

男の人は自身の耳に人差し指を当てる仕草で続けた。


「ああ。イヤホンでもしてる?聞こえてない?取ってくれなきゃ、話できないんだけどさ。ねぇ、ふみちゃん」


大きな手が目の前に伸びる。体は強張り、身動きは取れなくて。ぎゅっと、瞼を瞑った。


「や、めて…っ」


拒絶する小さな声にもう一つの音が被さる。


「あ?汚い手で触んな。傷つけたらどうすんだよ。あんた、慰謝料払ってくれんの」


彗……?
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