きみは永遠の小悪魔【完】
口を薄く開いた私は「お仕事、戻らなくていいの?」と尋ねる。悪い子になる予定が、お仕事を心配するいい子になってしまった。

一拍置いてハンドルに手を掛けた彗が私を覗き込む。ぽわ…と揺らめく私の瞳が、彗の柔らかなアンバーの瞳に捕まるの。


「人は足りたようなので、急いで戻る必要なくなりました」


胸がどうしようもなく熱くてくすぐったい。


「俺、暇になったんですけど……どうします?」

「一緒にいたいです。彗のこと、今日は私が独り占めしたいよ」


さっきまで落ち込んでいた視線が、顔ごと彗の方に持ち上がる。ぱち、と瞬きをすると目尻に乗っかった涙が落ちそうだから、我慢してぎゅうっと目を瞑った。

わわ…っ。逆効果だ。膨らんだ涙が肌を滑る。

私が素直になると彗は嬉しいのか、唇に穏やかな笑みをのせた。結んだ三つ編みが崩れないように優しく髪を撫で、掬ってくれる。

涙の跡を擦りながら「あっ。でも、門限……家に帰らなきゃ」心の奥で眠る引っかかりに臆病になったのを、彗は不安ごと攫ったんだ。


「家には伝えてます。“お嬢様の買い物が長引きそうなので帰りが遅いです”って。嘘、下手すぎましたか?」

「えっ!?」

「理由がなくても一緒にいたいって思ったらダメですかね」

「そんなことありません、大歓迎です!だって、私の好きは毎日彗に一直線なんだもん(こころの声、だだ漏れになっちゃった)」


私が首を大きくぶんぶん振ったせいで、可愛く結った三つ編みは視界の端で毛先が解けた。

はしゃぎすぎ、と彗は視線だけで話しかけて。落ちた髪を拾い結び直してくれる。

出来上がった瞬間、私はふにゃと口元を緩ませて彗を見る。


「彗、だいすき」

ふ、と彗が瞳を細めて愛おしく微笑んだ。

「俺も大好きです」
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