恋病、発熱。〜私に冷たい婚約者、誰かに恋愛指数100みたいです〜
 ……いえいえ。私は自分が住む邸に戻って来たばかりだと言うのに、これから何処に行こうとしているの。

 リディア。冷静に考えて。

 父を避けて一時的に何処かに行っても、この場所へと帰って来なければならないことには変わりはないんだから。

「……ただいま帰りました。お父様」

 私はなるべく表情を消しつつ腕を広げたままの父の横をするりとすり抜け、ダヴェンポート侯爵邸へと入った。

 使用人たちは娘の後を慌てて追ってくる侯爵家当主のみっともない姿を見ても、特に意に介さずに見て見ぬ振りをしていた。

 娘の私をところ構わず溺愛し、こうして冷たく接されていることは、ここで働いている使用人全員が知るところだからだ。

「リディア! 今日は、何処に行っていたんだ?」

「……フレイン伯爵邸です。友人のイーディスとお茶をしていました」

 自室へと戻っている私の後を追うお父様は、十七歳になったばかりの娘が何をしていたか、気になって堪らないようだ。

 私を産んだ時に母は亡くなり、彼女を誰よりも愛していた父と兄は私を溺愛した。

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