恋病、発熱。〜私に冷たい婚約者、誰かに恋愛指数100みたいです〜
 外交関係で役職を持つ貴族の父と兄は執務中だろうし、彼らの執務室へは私も以前お邪魔した事があるので何処にあるかは知っている。

 城へ向かう途中、大きなケーキが目に入った。

 豪華な美しく飾られたもので、おそらくこのお茶会のために特別に作られたものだろう。

 私がその横を通り過ぎようとした瞬間、ケーキがぐらりと傾き、気がつけばねっとりとした柔らかなものに覆われてしまっていた。

 高さを保つように作られていたケーキが、私に向かって勝手に傾いて来るなんて、考えられない。

 きっと……誰かが、故意にケーキを倒したんだ。

 ……ナターシャ様にあれを公言されれば、私が城に向かうことは、容易に予想が出来ていたはず。

 けれど、現行犯でもなければ彼女と関連付けることなんて……出来ないだろう。犯人はもう既に近くには居ないはずだし、私が予想した通り計画的犯行であれば尚更だ。

 呆然としたままで座り込んでいた私に、周囲に居た使用人たちが慌てて近づき、とにかくここは着替えましょうと言い出した。

< 88 / 140 >

この作品をシェア

pagetop