恋病、発熱。〜私に冷たい婚約者、誰かに恋愛指数100みたいです〜
 ケーキ塗れの姿のままで城中を歩く訳にはいかないと考えた私は『ダヴェンポート侯爵か、兄を呼んでください』と告げるだけしか出来なかった。

 辺りは騒然としていて、私には好奇の視線が向けられていた。

 ……ここで、みっともなく泣き出す訳には行かない。

 ゆっくりと立ち上がり、私は彼らにカーテシーをして微笑んだ。

 それを合図にピタリと止んだ騒めきを横目に、背後へ振り返った私は使用人の案内に従って歩き出した。

「……レンブラント殿下には、これをお伝えを?」

 とんでもないことが起こったし、誰かからの嫌がらせである事は明白なせいか、使用人が私に耳打ちして来た。

「いいえ。先に父と兄に会います。こちらへ戻られたレンブラント様にはその後で、準備が整ってからこちらから連絡をしますとお伝えください。まずは、湯浴みをして着替えます」

 使用人の一人が私の言葉をもう一度確認し、去って行った。

 私自身だって考えもしなかったまさかの事態だけれど、こうなってしまっては仕方ない。

 こんな格好で王族に会える訳がないし、それに出来れば彼にこんな姿を見られたくはなかった。
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