愛しい君へ
次の日の朝、匡はわたしを会社まで車で送ってくれた。
「大丈夫か?」
降りる間際のわたしに匡が訊く。
わたしは作り笑顔を浮かべると、「大丈夫。送ってくれて、ありがとね。」と言い、匡の車から降りた。
そしてわたしは出社すると、藤崎社長に言われた通り会長室へと向かった。
相当なことがない限り入ることのない会長室。
会長室の目の前まで来たはいいが、なかなかノックすることが出来なかった。
この中に入ってしまえば、わたしの人生が向かいたくない方向へ変わってしまうのが分かっていたからだ。
しかし、社長命令を無視するわけにもいかず、わたしは恐る恐る会長室のドアをノックした。
すると、会長室のドアが開き、社長秘書の神崎さんが顔を出した。
「笠井ひよりさんですね。会長と社長がお待ちですよ。」
そう言うと、神崎さんは「どうぞ。」とわたしを中へ促した。
「失礼致します。」
中に入ると、大きなデスクの向こう側の背もたれの長い椅子にドーンと座る会長と、会長のデスク前にあるソファーに足を組んで座る藤崎社長の姿があった。
わたしはその迫力に動けず、立ち尽くしていた。
「おはよう、ひより。さぁ、座って。」
わたしのことを下の名前で呼ぶようになった藤崎社長。
わたしは「はい。」と返事をすると、藤崎社長と向かい合うようにそっとソファーに腰を掛けた。