愛しい君へ
「会長、この方が藤崎家に嫁いでくる笠井ひよりさんです。」
藤崎社長は、そのように会長にわたしを紹介した。
会長は、藤崎社長の父親だ。
「ほう、君が。綺麗な人じゃないか。」
会長はそう言いながら、伸びた口髭を撫でるように触った。
「それじゃあ、早速だけど。」
藤崎社長はそう言うと、わたしの目の前に一枚の紙を差し出してきた。
「こ、これって、、、。」
「婚姻届だよ。」
そう、藤崎社長がわたしの前に差し出したのは婚姻届だったのだ。
わたしは、あまりの展開の早さに驚きを隠せなかった。
「さぁ、書いて。」
そう言いながら、ボールペンを婚姻届の横に添える藤崎社長。
わたしは「今、ここで書くんですか?!」と訊いた。
「そうだよ。さぁ、妻の欄を埋めて。」
あまりにも突然過ぎて、思考が停止するわたし。
これを書いてしまったら、わたしの人生はどうなっていくの?
逃れる方法はないの?
しかし、会長と社長からの圧は強く、とてもじゃないが拒否出来る状況ではなかった。
わたしは震える右手でボールペンを手に取ると、会長と社長からの圧に負け、婚姻届の妻の欄を記入してしまったのだった。