愛しい君へ
わたしが婚姻届を書き終えると、藤崎社長はわたしが書いた欄を確認し、それから秘書の神崎さんに「あとよろしく。」と渡していた。
神崎さんは婚姻届を受け取ると、「かしこまりました。」と言い、会長室を退室して行った。
「ひより、あとのことはこちらに任せて。婚姻届が受理されれば、君は正式に僕の妻として、社内のみんなにも紹介するからね。」
「え、社内のみんなにですか?」
「もちろん。」
わたしは複雑な気持ちだった。
藤崎社長は、社内の女子社員たちに人気がある、、、それがわたしが妻になっただなんて知られたら、働きづらくならないだろうか。
「あとは、君のご両親にもご挨拶したいところだけど、君のご両親はお亡くなりになられているようだね。」
藤崎社長の言葉にわたしは「調べたんですか?」と訊いた。
「妻になる君の事は知っておきたいからね。」
そう、わたしの両親はわたしが16歳のときに交通事故で亡くなっているのだ。
それから身寄りがなかったわたしは、小さい頃から家族ぐるみで仲が良かった匡の実家である五藤家に18歳までお世話になっていた。
わたしからしたら、匡のお父さんとお母さんはわたしの両親代わりで、わたしを本当の娘のように可愛がってくれていた。
「こないだの男性は、五藤匡さんだね。ひよりからしたら、お兄さんみたいなものかな?君のご両親代わりである五藤家の方たちには、きちんとご挨拶したいと思っているよ。」
社長と結婚だなんて、一見喜ばしい事に聞こえるだろう。
きっと匡のお父さんとお母さんは、それを聞けば喜ぶに違いない。
本当はそうじゃない、だなんて、、、言えないよなぁ。