愛しい君へ
「あとは、ひより。君は、僕の妻になるんだから、僕の言葉は絶対だ。君に拒否権はないからね。藤崎家の嫁として、僕の妻として恥のないよう、よろしく頼むよ。それから今日から、僕のことは玲司さんと呼ぶこと。分かったね?ひより。」
藤崎社長の言葉にわたしは「はい、玲司さん。」と返事をした。
「いい子だ。それじゃあ、仕事に戻りなさい。僕は、取引先の社長のところに行ってくるからね。」
「はい。それでは、失礼致しました。」
そう言って、わたしは一礼をし、会長室を退室した。
その瞬間、あの何とも言えない圧と緊張感から解放され、身体の力が抜け、わたしは壁にもたれ掛かった。
わたしは、正式に藤崎社長の妻になってしまったの?
自分のこれからが不安で仕方がない。
こんな気持ちのままで仕事に集中出来るわけがない。
しかし、いつまでもそこに立ち止まっているわけにもいかず、わたしは一つ溜め息をつき、自分のデスクへと向かったのだった。
デスクに戻ると、チームのみんなからの視線を感じた。
みんな「どこに行ってたの?」とでも言い出そうな表情をしていた。
ずっと悩んでいたって仕方ない。
仕事に支障をきたすわけにもいかない。
わたしは気持ちを切り替える努力をし、自分の業務を開始したのだった。