愛しい君へ
「すいません、ここわたしの家なんですけど、何してるんですか?!」
わたしは近くにいた業者の人に慌てて話し掛けた。
話し掛けられた業者の人は驚いた表情を浮かべると、「藤崎ひより様ですか?ご主人の藤崎玲司様より、この部屋の物の片付けを依頼されまして。」と言った。
え?勝手に?
そして、わたしはふとあることを思い出し、急いで家の中に入った。
すると、部屋の中の物はほとんどが運び出されて、寝室は既にもぬけの殻になっていた。
わたしは、慌ててテレビ台の横のチェストに目をやる。
「あった!」
そう、わたしが慌てていたのはチェストの上に飾っていた、ツガイのフクロウの置き物が捨てられていないか不安だったからだ。
わたしはそれを手に取り抱き締めると、「良かったぁ、、、。」と安堵した。
これは匡に買ってもらった大切なもの。
これだけは、捨てられるわけにはいかなかった。
すると、「何だよ、これ、、、。」とあとから匡がやって来た。
「もう、この家の物は必要ないみたい、、、。業者の人が片付けを依頼されたって言ってた。」
「だからって、こんな勝手に?そんなのありかよ、、、。」
匡は苛ついていたが、わたしはもう諦めていた。
ただ、このツガイのフクロウが無事だった、わたしはそれだけで充分だった。