愛しい君へ

段々と荷物が運び出され、空になっていく部屋をわたしは見つめていた。

ここに引っ越してきたばかりで一人暮らしにワクワクした時のことを思い出す。

それから、仕事が定時に終わり帰宅出来た時は、料理を作って、匡と二人で他愛もない話をしながら夕飯を食べたなぁ。
それも、、、もう出来なくなるんだ。

寂しい気持ちが込み上げてくる。

すると、玄関の方から「ひより様。」とわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

ふと見ると、そこには神崎さんが居て「お迎えに参りました。」と言った。

「ひより、、、。」

わたしの名前を呼び、心配そうな表情でわたしを見つめる匡。

わたしは「大丈夫!」と笑顔で表現すると、「じゃあ、わたし行くね。」と言った。

本当は行きたくない。
このままずっと、ここで暮らしていたかった。

その気持ちをグッと堪えながら、わたしはツガイのフクロウを抱き締めたまま神崎さんについて行き、1階に停まっていた黒い高級車の後部座席に乗り込んだ。

神崎さんが運転する静かな車内。

わたしはきっと、これから住むことになる新居へ連れて行かれる。

わたしは何も感じないまま、外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。

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