聖女のいない国に、祝福は訪れない
我が、愛しき聖女(セドリック)

 セドリックには水に浸かってぐったりしている少女の顔に、見覚えがあった。

 隣国の皇太子フェドクガ・ムガデンの婚約者として暗い顔で寄り添う聖女の姿を思い出した彼は、このような場所で出会えるなど思えず拳を握りしめる。

 ―――ずっと彼女を、隣国から連れ出す機会を窺っていた。

 だが彼の国へ攻め込もうとも、聖女がその地で生まれ育ち生活しているともなれば、強力な加護に包まれているせいでセドリックは手も足も出せなかったのだ。

(飛んで火に入る夏の虫とは、よく言ったものだ)

 彼女が自ら隣国から出ていく判断をしたようには思えないが――彼らが聖女を不要としているのであれば、保護し匿うのは当然のことだ。

(もう二度と、彼女があの地に根ざす聖女として名を馳せることはないだろう)

 これからフリジアは、セドリックが治める帝国の聖女となる。

(俺は君を、護るために生まれて来た)

 彼女を捕虜として拘束すると称して抱き上げたセドリックは、細すぎる身体にたじろいだ。
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