聖女のいない国に、祝福は訪れない
 フリジアが止める暇もなく特攻して行った犬が剣の錆になってしまうのではないかと恐れた彼女は真っ青な顔でギュッと目を瞑ったが、いつまで経っても悲鳴が聞こえてくることはなかった。

「好奇心旺盛な犬だな……」
「わふっ」
「その調子で、リエルル公爵令嬢を守るように」
「わん!」

 彼は目障りな犬の命を腰元につけた剣を引き抜き奪うようなことはせず、しっかりと抱きとめて何度か全身を撫でつけてから獣を地へ離した。

 四肢を動かし大地を蹴った犬は、再びフリジアの元へと戻り、キラキラした目で彼女に語る。
「セドリックに遊んでもらった!」満足げな犬のふさふさとして触り心地のいい毛並みをゆっくりと撫でつけたフリジアは、うさぎを地面に下ろすと動物達に別れを告げた。

「また今度……。一緒に遊びましょう……」
「わふ!」
「きゅう……」
「ピィイ!」

 鳥が空へ羽ばたき、犬が四肢を蹴り、うさぎがちょこちょこと小さな足を動かしてフリージアが咲き誇る花畑の中へ顔を埋め、同化した。

 それを確認した彼女は、こちらへ歩み寄るセドリックを拒絶せず――黙って彼が来るのを待つ。
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