聖女のいない国に、祝福は訪れない
「君が選んだ服装を、悪く言うつもりはなかった」
「……いえ……。陛下は何も、悪くありません……」
「白よりも、黒が似合うな」

 フリジアははっと顔を上げ、セドリックを見つめた。
 フェドクガとは真逆のことを言われたからだ。

「リエルル公爵令嬢のその身に纏う影が強調され、妖艶さを醸し出している……」
「それは……」
「誰もが君の美しき姿に見惚れるだろう」

 聖女よりも男性をたぶらかす悪女の方がお似合いだと、遠回しに言われたと勘違いしたフリジアが異を唱えようとすれば、耳元で囁かれた言葉に目を丸くした。

(私は、陛下にさえ気にかけて頂ければ……。それだけで構わないのに……)

 フリジアはなぜそう思うのか理解できぬまま、どこか寂しそうに眉を伏せると彼へ腕を差し出す。

「陛下。お時間です……」
「ああ。君の美しい姿は誰にも見せたくないが、仕方あるまい」

 セドリックは彼女と腕を組むと、追悼式が行われる会場を目指した。
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