聖女のいない国に、祝福は訪れない
「エル・アルカ・ディーネ。先代聖女よ、安らかに眠れ……」

 先代聖女の肖像画が飾られた祭殿には、色とりどりのフリージアが備えられていた。

 追悼式の光景をじっと見つめていたフリジアは、至る所から先代聖女を思い涙を流す民の姿をセドリックの隣で目にしながらぼんやりと考える。

(私もこうして、民から悲しまれるような存在になりたかった……)

 先代がなくなってから十八年も経つと言うのに、これほどまでに想われている聖女になど、勝てるわけがない。

 先代聖女と、比較されることもあるだろう。
 先代の方がよかったと涙ながらに訴えを起こされる可能性だってある。

 セドリックの母親はあまりにも――フリジアが逆立ちしても勝てないと思うほどに、輝かしい功績を持ち過ぎていた。

(ムガルデンは今、ニセラを聖女だと思いこんでいる……)

 先代聖女のようなカリスマ性があればと、悔やまずにはいられない。

 母国にフリジアがいなくなったことを、悲しむ人などいないと言う事実が――彼女の胸を締め付け、心を苛む。
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