聖女のいない国に、祝福は訪れない
(また、悲しくなってしまった……)

 人々が先代聖女の死を悼んでいる中。
 フリジアは自分の過去を思い出して心を痛め、涙を流していると知られたら。
 自分のことしか考えていない女だと蔑まれてしまうだろう。

(私は弱い……)

 フリジアはゴシゴシと目元を擦ってこぼれ落ちた雫を拭うと、じっと先代聖女の肖像画を見つめた。

(どうしたら、先代聖女のように強い意志の籠もった瞳ができるのか……)

 ふわふわとした長い髪。優しい顔立ち。
 可憐な容姿に似合わず、先代聖女の瞳は凛々しく描かれている。

(あなたとお話が、したかった……)

 セドリックから腕を離したフリジアは、誘われるようにして椅子から立ち上がり祭壇へと向かう。

「あれは……」
「聖女様だ」
「陛下の婚約者」
「なんて美しいのかしら……」

 先代聖女の死を偲んでいた者達が次々に涙を止め、フリジアに見惚れた。

(こうなるのが、嫌だった……)

 民にとって新たな聖女は希望の象徴であり、勝利の女神だ。
 アーデンフォルカ帝国に、永遠の幸福を約束するもの。
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