聖女のいない国に、祝福は訪れない
 だからフリジアが目立つ動きをすれば、先代聖女の死を嘆き悲しんでいたのが嘘のように食らいつく。

(まるで命を落とした人には、価値などないと言うかのように……)

 偉大な功績を残した先代聖女と、ただこの地に幸福を齎すと称されている不出来な聖女であれば、前者を崇め奉るべきだ。

(私は聖女にふさわしくない。でも、先代聖女はきっと……)

 命を落とすその瞬間まで、誇り高き聖女であり続けた。

 自分が劣っていると結論付けなければ、生きていけないほどに。
 彼女の価値観は歪んでいた。

 規則正しい生活や温かい食事、セドリックから注がれる愛によってかなり改善しては来ているが――彼女の根本が変化しない限り、フリジアが胸を張って誇り高き聖女であると自ら名乗るのは難しいだろう。

(私はニセラのように、不確かな自信を振りかざせない。先代聖女のように腕っぷしは強くないし、精神面が弱すぎる……)

 自身の欠点を頭の中で羅列した彼女は、手に持っていた紫のフリージアを祭壇に備える。
< 107 / 136 >

この作品をシェア

pagetop