聖女のいない国に、祝福は訪れない
(赤と青が混ざり合えば、紫に……)

 セドリックは母親にフリージアの花を贈るなら、赤がいいと言った。
 そして、彼はフリジアにその花弁を象った青のアクセサリーを選んで渡している。

「先代聖女様。これより私が、この地を守護いたします……」

 その可憐な外見と、腕っぷしが強くお転婆だったと称される内面――そのアンバランスさは、赤と青が混ざり合って生まれた紫のような女性であったのではないかとフリジアへ思わせるのには充分で……。

(腐敗したムガルデン王国を豊かな国にするくらいなら、この帝国を守りたい……)

 アーデンフォルカ帝国に先代聖女の加護が失われたならば、他国と同じように荒廃した地になるだけ。
 民を守るために、フリジアはいつか必ず彼女の加護を引き継がねばならない。
 ならば、今でも後でも変わりないのではないか。

 そんな言い訳を心の中で思い描きながら。
 彼女は肖像画の飾られた祭壇の前に跪くと、何かに突き動かされるかのように祝詞を紡ぐ。

「エル・アルカ・ディーネ。アーデンフォルカ帝国に、祝福を」

 フリジアが癒やしの力を使ったのは、無意識だった。
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