聖女のいない国に、祝福は訪れない
 本来であればなんの意味もない行為であったが、なぜか彼女が天に祈りを捧げた瞬間、不思議なことが起きる。

 ――フリジアの全身から眩い光が放たれた瞬間、アーデンフォルカ帝国の空気が一変したのだ。

 先代聖女の加護が切れるその瞬間まで。
 この地に祝福を齎すつもりなどなかったフリジアは、真っ青な顔で聖女の加護が上書きされていく様子を眺めていた。

「この光は……」
「聖女の加護が復活した!」
「おい、見ろよ! 林檎の木に実が成ってる!」
「奇跡だ!」
「神よ……! 再びこの地に聖女様をお預け頂き、感謝いたします……!」

 だからどれほど民達が大地の芽吹きを喜ぼうが、彼女にはなんの価値も見いだせなかった。

(先代聖女の加護が、私のせいで消えた……)

 そのショックはフリジアにとって、正気を失うほどのもので――。

「いやぁあ……!」

 認めたくなかった。
 先代聖女の加護が薄れるその瞬間を、最後まで見届けるつもりだったのに。
 余計な一言によって故人を冒涜してしまったのだ。
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