聖女のいない国に、祝福は訪れない
「きゃあ!」
「なぜこんなところに狼が!」
「狼狽えるな! 彼らは聖女様の化身だ……! 聖女の根ざす土地の民に、危害は加えない……!」

 先代聖女の追悼式は、あっと言う間に大騒ぎになった。

 破壊された窓からは勢いよくぴょんぴょんと羊やヤギ、鹿と言った多種多様な動物達が侵入し、フリジアの周りに集まってきた。

「メェ~」

 心配そうにこちらを見つめるのんびり屋な羊を抱き寄せたフリジアは、静かに涙を流しながら目を閉じる。

(私のせいで、皆を心配させてしまった……)

 この騒動を収めるためには、フリジアが凛々しく動物達に慰める必要はないのだと働きかけなければならないのに――。

 セドリックと言い争ったせいか。
 その気力をどうしても絞り出せなかったフリジアは、不安そうな動物達に囲まれたまま意識を失った。
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