聖女のいない国に、祝福は訪れない
「俺は先代聖女の息子だ」
「がう!」
「彼女に危害を加えるつもりなどない」
「ガルルル……!」
「俺がそう言う人間であれば、君達がここへやってくる前に、母国と同じような扱いをしていただろう」
「めぇ~」

「人間の言葉など信じられるか」と狼は唸っているが、フリジアに抱きしめられていた羊は、仲間を諭すような声音で鳴く。

(少しだけ殺気が薄れたのは、気の所為ではないと思いたいが……)

 彼らは明らかに、敵意を表明する相手を間違えている。
 セドリックは喧嘩を売らないように気をつけながら、硬い表情で動物達に諭した。

「君達が牙を向くべき相手は、俺ではない」

 これほど敵対心の強い獣達だ。
 当然、ムガルデン王国でフリジアが虐げられていることを知っていれば手を出そうとしただろう。
 狼の瞳には、かなり根深い人間に対する恨みが籠もっているのだから……。

「グルルル……」
「聖女を虐げた者達に対する復讐に、興味はないか」

 セドリックは動物達を味方につけるため、彼らにある提案をした。
 聖女のことを誰よりも大切に想うもの同士、手を取り合うべきだと考えたのだ。
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