聖女のいない国に、祝福は訪れない
「めぇ~」
「がう! がうう!」
「め~め~」
「ガルルゥ……」

 特に彼のそばにいた羊は、セドリックの言葉を受けて積極的に狼の説得に走っていた。何度か会話しているようにも聞こえる鳴き声の末。
 狼は不満そうな瞳を向けると、セドリックの前にゆっくりと跪いた。

「ありがとう」
「がう……」

 セドリックの謝辞を耳にして不満そうに視線を逸らすあたり、狼も厭々フリジアのために従うと決めたのだろう。

 一触触発な雰囲気が霧散したことにほっと胸を撫で下ろした彼は、この場の混乱を納めるために部下へ指示を送ろうとして――。

「陛下! 大変です!」
「今度はなんだ」

 教会の出入り口から乱れた着衣の騎士が現れ、声を張り上げて彼を呼ぶ方向へと視線を移す。

(まったく……。次から次へと慌ただしい……)

 切り傷などは見られないが、あれほど慌てているのだ。

 ムガルデン王国からアーデンフォルカ帝国へ向けて動物達の大移動が始まっていることに気づいたフェドクガから妨害を受けた可能性を考慮し、硬い表情で騎士の言葉を待っていたが、その男は不自然に視線を逸らすとフリジアを視界へ捉えながら告げた。
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