聖女のいない国に、祝福は訪れない
「セヌ」
「お呼びでしょうか、陛下」
「医者を呼べ」
「かしこまりました」
王城へ戻った彼はすぐさま信頼のおける侍女を呼び付け、医者を呼ぶように告げた。
(よく一人でここまで、逃げ果せられたものだ……)
清潔な布を何枚も使って彼女の全身にまとわりつく水気を拭い取ったセドリックは、ベッドへ寝かせるとフリジアの寝顔を観察する。
(彼女はどんな声で話し、どんな表情で俺を見つめるのだろうか)
セドリックは厶ガルデンの敵国、アーデンフォルカ帝国の皇帝であり――フリジアとは敵対する関係だった。
母国に聖女の加護を齎していた彼女にとって、彼は自身に危害を加え搾取しようと目論む危険人物だ。
(警戒心をどう薄れさせるかが、問題だ……)
アーデンフォルカよりも厶ガルデンの方がよかったなど思わせることだけは、絶対に避けなければならない。
セドリックは必死に思考を巡らせ、あれこれと策を練ってはああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返していた。