聖女のいない国に、祝福は訪れない
(生きていてよかった……)

 まさか誕生日に、もう二度と会えないと思っていた両親と言葉を交わせる時が来るなどと思えず、フリジアは何度も神とセドリックに感謝した。

「陛下が私に、とっても素敵な誕生日プレゼントをくださったのですね……」

 溢れ出る涙を指先で拭った娘の姿を目にした両親は、何か言いたげに顔を見合わせ困惑している。
 これほど大喜びしてセドリックに感謝を伝えるフリジアへ、真実を告げていいのかと悩んでいるのだろう。

「フリジア……。あのね……」
「実は……」

 夫妻は悩んだ末、真実を告げることにした。
 彼女を守るように身体を丸めていた狼が、事実を包み隠すことなく打ち明けろと言わんばかりに、鋭い眼光で両親を睨みつけたからだ。

「動物達が……」

 一連の話を耳にしたフリジアは、両親から手を離して不機嫌そうな獣を呼び寄せた。
 狼は主の元まで四肢を動かして歩くと、彼女に抱きかかえられ幸せそうに目を細める。

(アーデンフォルカ帝国に足を踏み入れたと知れば、フェドクガは罰を与えるだろう)

 ニセラは両親に対する恩や愛情を持ち合わせていない。
 自分のことしか考えない妹は、二人を庇うことなく見放すだろう。
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