聖女のいない国に、祝福は訪れない
(信じられないのは、無理もないわ……)

 ある日突然聖女として王家に連れて行かれたかと思えば、双子の妹が真の聖女は自分だと叫び、フェドクガの隣で幸福を享受しているのだから。
 何が起こっているのか一から十まで説明すれば、心優しい両親達は床に臥せってしまうかもしれない。

「ムガルデン王国に、聖女の祝福が齎されることはありません……」

 フリジアは聖女のありがたい言葉を紡ぐことで、面倒な説明を省いて両親を無理やり納得させた。

(別名、なんだかよくわからないけど、聖女に任命された娘がそう言うなら信じよう作戦……。大成功……)

 誰だって命を失うことは恐ろしい。

 自分達の娘がなぜだかよくわからない理由で争っているのだ。
 ひとまず安全な場所に身を隠そうと考えるのは、悪いことではない。

「リエルル公爵。今夜は王城の空き部屋でお休みください」
「ああ……。何から何まで、悪いね……」
「……フリジア……。本当に、大丈夫なの……?」

 セヌの言葉を受けた両親は敵地に娘を一人残すことを不安に思っているようだ。
 彼女は優しく微笑んで送り出す。
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