聖女のいない国に、祝福は訪れない
「この子達が、私を守ってくれるから……」
「がう!」

 狼はセドリックへ唸っていたのが嘘のように大人しくしているが、鳴き声を上げると両親達が怯えるあたり、彼らにも手を出そうとしたのかもしれない。

「リエルル公爵」
「ああ。そうだな……」
「それじゃあ、フリジア。またね……?」
「はい。おやすみなさい……」

 気まずそうな笑顔を浮かべた彼らは、セヌに促されてフリジアの自室をあとにした。

「がう……」

 やっとうるさいのがいなくなったと、狼は尻尾を振って喜んでいる。
 彼女は獣を抱き上げると胸元へ抱え込み、幸せな気持ちでいっぱいになりながら二度寝でもしようかと目を閉じた。

「リエルル公爵令嬢」
「ガルルル!」

 フリジアをその名で呼ぶのは、王城の中ではセドリックだけだ。
 パチリと彼女が目覚めれば、胸元から勢いよく飛び出した狼が彼を威嚇する。

「……落ち着いてください……。彼は、味方です……」
「がう! がう!」
「あなたの命を、危険に晒したくないの……」
「ガルルル……」

 主に望まれては仕方がない。
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