聖女のいない国に、祝福は訪れない
 狼は少しだけ開け放たれていた窓を器用に大きく開くと、勢いよく外へと駆け出して行った。

(二人きりに、なってしまった……)

 フリジアは去りゆく獣の後ろ姿を眺めながら、彼とどんな話をすればいいのだろうかと思い悩む。

(私のせいで、追悼式はめちゃくちゃ……)

 どれほど謝罪をしても、しきれない。

 彼女は唇を噛みしめると、意を決したように大きく口を開き――。

「申し訳、ございません……」
「すまなかった」

 セドリックとほとんど同じタイミングで謝罪をした。

「なぜ、殿下が謝るのですか……」
「気にする必要はないと、言ったはずだが……」

 二人は息をぴったり合わせて、お互いに疑問を投げかける。

「私のせいで、追悼式が台無しになりました……」
「追悼式と同時に、生誕祭を企画するべきだったんだろうな……」

 会話の成立しない二人は、ほとんど同時に言葉を発し続ける。
 その声は不協和音を奏で、内容の理解には長い時間が掛かった。

(自分のせいだと、卑下するのはやめよう……)

 セドリックは貴重な時間を割いて、フリジアへ会いに来ている。
 これ以上無駄なやり取りはするべきではないと決めた彼女は、彼の目をまっすぐ見つめて告げた。
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