聖女のいない国に、祝福は訪れない
(彼女の欲しがるものは、なんでも与えよう)

 フリジアのためならセドリックは、大金を失っても構わない。
 彼女が離れていくのであれば、すべてを犠牲にしてでも彼女を手に入れたかったからだ。

(母上や父上が生きていれば。何がなんでも厶ガルデンには帰すなと、力説していたはずだからな……)

 それがたとえ、周りからしてみれば歪んだ感情だと蔑まれるようなものであったとしても――セドリックは瞳に彼女へ対する執着心を宿らせると、フリジアの髪を優しく撫でた。

「陛下。お待たせして、申し訳ございません」
「ああ。異常がないか、確認してくれ」
「かしこまりました」

 セヌからの呼び出しを受けた王家お抱えの医師が、なぜセドリックの不調ではなく見覚えのない娘を診察しなければならないのかと怪訝そうな顔をしながら彼女の体調を確認する。

(衰弱、過労、低体温、栄養不足……。体調不良のオンパレードだな)

 どれほど長い間冷たい水の中にいたのかはわからないが、数分や数十秒でないことは確かだ。
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