聖女のいない国に、祝福は訪れない
偽聖女と口付け
(陛下のご厚意により、私の両親は動物達と一緒にアーデンフォルカ帝国で暮らすようになった……)

 神の化身たる獣達は、リエルル公爵家を守る剣や盾でもあり、監視役だ。
 両親に危害を加える不届き者が現れたなら、動物達が力になる。

 だが、もしもフリジアを悲しませるような動きをすれば――彼らの命は獣達の手によって奪われる。

(どうか妹と秘密裏に、連絡を取りませんように……)

 フリジアは神に祈りを捧げながら、気分転換に王城内を散歩していた。

 彼女がアーデンフォルカを守護すると決めてから、この地は急速に十八年前の活気を取り戻したそうだ。

 何を植えても豊かに実る大地、程よい天候の変化、小鳥の囀り――これらは聖女の加護を受けし地である証拠らしく、人々はフリジアに強い信仰心を芽生えさせた。

『もう二度と、ムガルデン王国には奪わせない』

 民達はフリジアを聖女様と呼ぶよう徹底し、他国に対して偽情報を率先して流す。

『アーデンフォルカ帝国に誕生した新たな聖女は赤子』

 フリジアが知らないところで一人歩きしている話のうち一つが、そうした内容の噂だった。
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