聖女のいない国に、祝福は訪れない
(帝国中の赤子を攫って、聖女獲得を目論む恐ろしい国が出てこなければいいけど……)

 彼女は不安で胸をいっぱいにしながら、中庭に到着した。

「んきゅう!」

 フリージアの花々の隙間からぴょこんと長く伸びた二つの耳が、ガサゴソと草花をかき分け覗いている。
 彼女が優しく微笑めば、顔を出したうさぎが勢いよく飛び出してきた。

「こんにちは……」
「むきゅ~!」

 フリジアに会えて嬉しいと目からハートマークを飛ばしてかわいらしい鳴き声を上げるうさぎの目線に合わせてしゃがみこんだ彼女は、ドレスが汚れるのも厭わずに。
 彼らと戯れながら動物達のため、シロツメクサの花かんむりを編もうと決めた。
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