聖女のいない国に、祝福は訪れない
 厶ガルデンとアーデンフォルカは隣国とはいえ、一日中歩き続けて到着するかどうかくらいの距離がある。
 いくら流れの早い濁流に飲まれたとしても、そう簡単にはやって来られなかったはずだ。

「今は症状が落ち着いておりますが……。もう少し遅ければ、危なかったかもしれません……」
「そうか。他に気になる点がなければ、もういい。下がれ」
「かしこまりました」

 医者は彼女の正体を知りたがっているようだったが、セドリックはあえてフリジアが聖女であることを伝えなかった。
 遅かれ早かれ王城で働く人々に彼女の存在を明かすつもりだが、まだ早いと考えたのだ。

(今だけは、彼女を独り占めさせてほしい……)

 セドリックはフリジアが目覚めるまで、時間の許す限り彼女の寝顔を堪能していたかったが――。

「陛下。濡れたままですと、お身体に差し障ります。お嬢様の見張りは、私にお任せください」

 ずっしりと水気を含んだ身体をしっかりと抱き上げたせいか。
 セドリックも全身を冷たい水で濡らしていた。
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