聖女のいない国に、祝福は訪れない
「対応が遅れてしまい、申し訳なかった……」
「……いえ……。殿下のお手を煩わせることになり、大変申し訳ございません……」
「俺のせいで……」
「私が……」

 羽根を休める鳥の、機嫌を損ねてしまったようだ。
 バサバサと翼を羽ばたかせ、飛び立ってしまう。

「きゅーう」

 言い争う二人の姿を目にしていたうさぎは「自分はもう必要ないだろう」と、彼女の胸元からぴょこんと飛び出し、フリージアが咲き誇る花畑の中へ戻った。

「君とはいつも、謝ってばかりだな」
「……はい。本当に……」

 フリジアはくすくすと声を上げて笑いながら、抱きしめられたことで伝わる熱により、震えが止まっていることに気づく。

(陛下がいなければ、私は……)

 彼女は突然現れた妹に怯え、彼を奪われるかもしれないと泣き叫んでいただろう。

「心配するな。どれほど言い寄られたとしても、俺はあの女の声に耳を傾けることなどない」
「……わかりました……」

 フリジアはセドリックのことを、信じている。

(大丈夫……)

 だからこのあと、あんなことになるなど――彼女は想像もしていなかった。
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