聖女のいない国に、祝福は訪れない
 セドリックの言葉を信じていたフリジアは、もう二度とニセラの顔を見ることなどないと思っていたのだが――。

「セドリック~!」

 それから何度も、妹はセドリックの元へとやってきた。

 セドリックのことを堂々と名前で呼び、彼の背中に抱きつく天真爛漫なニセラの姿を――フリジアは物陰から見ていることしかできずにいる。

(やめて)

 どれほど彼はフリジアのものだと叫びたいと思っても。
 自身の命が脅かされるのではないかと思ったら、面と向かって胸の中で暴れ回る怒りをニセラへぶつけられなかった。

(私から陛下を、奪わないで……)

 妹は姉から聖女の座を奪っても、まだ足りないと言うのだろうか。

(ムガルデンの聖女としての肩書きなんて、必要ない。あなたにあげるから……)

 やっと幸せになれたのに。
 このささやかな幸福さえも奪われてしまえば、彼女には生きている意味がない。

「ニセラは、セドリックのことが大好きですぅ~!」

 あの女は不相応にも、悪逆非道の皇帝と呼ばれるセドリックに愛を囁き――彼の唇に口付けた。
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