聖女のいない国に、祝福は訪れない
(どうして……?)

 聖女と言う地位。

 王の婚約者と言う肩書きだけでは飽き足らず、フリジアからセドリックを奪おうとするなど。
 なんて強欲な女なのだろう。

(なぜこんなにも、悲しいの……?)

 彼女の瞳からは、はらはらと大粒の涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。

 何よりフリジアは、不意打ちとは言えニセラの口付けを避けることなく彼が受け入れたことにショックを受けていた。

(……彼の隣で生きたいなど、願わなければよかった)

 聖女の悲しみは雨となり、怒りは雷鳴を轟かせる。

 空は明るいのにバケツをひっくり返したような雨を全身に浴びたニセラが雨よけにセドリックの身体を使い、それを強い力で拒んだ彼と目が合った。

 訝しげに顰められた瞳が、フリジアに向けられている。

(……見られた)

 セドリックには、ショックを受ける彼女の姿がどんな風に見えているのだろうか。

(頬が濡れているのは、雨のせいだ)

 建物の中にいる彼女の瞳が潤んでいるのは、天気が悪いせいだ。
 そう勘違いしてほしいと願いながら。
 フリジアは無言で踵を返す。
 自室へ戻るためだ。
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